2019.12.06

ビジネスモデルとマーケティングの関係性

 
 
はじめに
 
企業のマーケティングを語る際に、必ず出てくる言葉に「ビジネスモデル」があります。ビジネスモデルとは直訳すれば「その企業が成長しているその原動力」のような意味合いになります。近年ビジネスモデルを冠した書籍がヒットする傾向にありますが、それには悲しい真実があります。
 
 
従来より経営戦略史は成功企業の勝ち方をひとつの勝ちパターンに当てはめてきましたが、インターネットが台頭してきたあたりからそれらが通用しなくなり、成功しているそれぞれの企業をひとつの勝ちパターンと捉えるようになりました。それがビジネスモデルです。
 
 
デジタルマーケティングにおいてもこのビジネスモデルという考え方は非常に重要となります。マーケティングとは企業経営における部分を指します。マーケティング部、企画部というように部署単位で表現されていることからも明確ですね。
 
 
反してビジネスモデルは企業経営全体を指します。マーケティングにとどまらず、組織や財務などを包括して表現されます。ここで考えないと行けないことは「デジタルマーケティング戦略」と「戦略」という言葉を使う以上ビジネスモデル、つまり企業経営全体の視点でマーケティングを見なければなりません。マーケティングを全社最適として捉える上で非常に重要な考え方なのです。
 
 
ビジネスモデルとは
 
 
~ビジネスモデルとはシンプルにどういう事?~
 
 
ビジネスモデルを概念的に理解しようとしても非常に難しいのでここでは事例を使って見ていきましょう。前途したようにビジネスモデルとは従来の経営戦略史において単一化された勝ちパターンが見えなくなったのでそれぞれの企業を勝ちパターンとして定義したという少し逃げ口上のような考え方なので会社の数だけビジネスモデルがあるという事になってしまいます。
 
 
その上で皆様の中で良いビジネスモデルといわれてイメージされるモデルはどのようなモデルでしょうか?ここではオーソドックスにパソコンメーカーであるDellのビジネスモデルを見ていきましょう。
 
 
今となってはあまりにも有名なビジネスモデルですが、 デルはパソコンを売る際、販売店を経由するのではなく、直接エンドユーザーに販売することで他社との差別化を図ったのです。デルのエンドユーザーに直販する方式は、高コストなバリューチェーンのリンクを切り離して、在庫管理を競合他社よりさらに深いレベルで把握することができるようになったわけです。
 
 
パソコンは次々とモデルチェンジがされ、業界的にもとてもスピード感があるので、在庫管理の優位性が高まれば、在庫の劣化や破損、陳腐化を回避することにも繋がります。このデルのビジネスモデルは、競合他社を寄せ付けることなく、圧倒的なシェアを獲得するに至りました。
 
 
また、ビジネスモデルとしてだけでなく戦略としても機能していたため、他社には真似できない方法で事業展開できるようになりました。
 
 
このようにビジネスモデルとはある「会社が成功している源泉にあるモデル」を指します。成功している理由の一つに「他社が真似出来ない模倣困難性」があるので当然経営学の観点で再現が出来るわけがなく、パターンとしてまとめることが出来ないと言うことですね。
 
 
経営学という学問は成功モデルの再現を目的としている為、非常に皮肉な話です。あくまで経営学の分野は社会科学であり物理の世界で言われる「光の速さは不変である」といった自然科学寄りの絶対法則は成り立ちません。
 
 
あくまで人が関わる社会学に近い領域で絶対法則を論じる事自体に無理があるのです。この話はまた別の機会にするとして今回はビジネスモデルについて深掘りしていきます。
 
 
~ビジネスモデルの構成要素は?~
 
 
ここからはビジネスモデルを構成する要素を説明する事でビジネスモデルの輪郭を明確にします。まず、ビジネスモデルの構成要素はどのようなものでしょうか。単なる成功企業の勝っている理由ですので決まり切った要素はありませんが、それでもまず抑えないといけない要素は「事業」「組織」「財務」です。学説的にもこの3つの一貫性が重要である事がよく説われます。
 
 
 
 
事業とは「誰に」「何を」「どのように」売るか、を指します。いわゆるマーケティングはこの部分を指し、事業戦略=マーケティング戦略と呼ぶこともあります。一方でデジタルマーケティングなどで良く話題になるWEB広告、ホームページ、SFA、マーケティングオートメーションなどはここでいう「どのように売るか」にあたります。非常に狭くなりますね。
 
 
とはいえマーケティングの定義について一般的に狭義で使われるケースが多いのでここでもマーケティング=「どのように売るか」の戦略とします。
 
 
次に組織ですが、ここも定義は様々ですが、私たちは組織を因数分解して「評価制度」「組織体制」「教育体制」「採用体制」「組織風土」と捉えております。だいたいは言葉の通りですが組織体制だけ補足します。
 
 
組織体制とはいわゆる体制ですね。分業制や多能工制、事業部制や職能制、マトリクス制などを指します。50年ほど前に組織体制において京セラの稲森氏がアメーバー制を提唱し話題となりましたが、これもいわゆる組織体制の一つです。
 
 
ちなみに組織が先か事業が先かという議論がなされます。チャンドラー派は事業でアンゾフ派は組織です。私たちは100%チャンドラー派です。主従関係で言えば事業が主であり、組織は従と捉えています。
 
 
もちろんベンチャー企業のように事業が尖っている会社は組織強化が必要ですし、大企業など組織が尖っている会社は事業強化が必要でそれぞれの置かれた状況によって違います。ただ、それでもなお、事業が重要であると捉えています。
 
 
話がそれましたが、次は財務です。財務戦略にも様々ありますが、ここでは論点がずれますので割愛いたします。事業と組織をどれだけ論じてもお金がなければだめだよね、と言うことです。ヒト(組織)、モノ(事業)があってもカネがなければお話にならない、という事ですね。
 
 
このようにビジネスモデルの構成要素は事業・組織・財務が必要であり、どれかを無視してしまうと機能しなくなると言うことですね。ビジネスモデル自体はその会社の企業戦略そのものを指しますのでそのまま企業戦略と捉えても相違はありません。
 
 
ビジネスモデルとはある会社の企業戦略が事業・組織・財務の観点で一つの生態系として美しく仕上がっている状態を指します。それぞれがそれぞれを補完し美しく回り続けている様子を指します。
 
 
ここまではまだ概念的であり、理解が難しいのではないでしょうか。ご安心ください。後ほど具体的な企業事例で説明いたしますので今はこのまま読み進めてください。
 
 
~グロースファクター~
 
 
もう一つビジネスモデルにおいて必要な要素がございます。実はビジネスモデルにおいてこの点が非常に重要で、いわゆるビジネスモデルにおいてはこの要素を論じているケースが多く見られます。
 
 
それは「グロースファクター」です。グロースファクターは私たちの造語ですが、いわばビジネスモデルが事業・組織・財務の観点で美しく回ることで「自己増殖」し、「模倣困難性」を構築し続ける様を指します。
 
 
下記の図はamazonの創設者のジェフペゾスが創業のアイデアをひらめいたレストランにて手元にあったナプキンに書き殴ったものです(といわれています)。矢印が四方向に流れ、真ん中に「GROWTH」という言葉が記載されています。端的に言えば、ユーザーが増えれば販売者が増える、販売者が増えれば品揃えが増える、品揃えが増えれば顧客満足が上がる、顧客満足が上がればユーザーが増える。
 
 
そのまま成長すれば企業体質が強くなり、商品が安くなり、安くなれば・・・(以下連鎖)というものです。
 
 
一度正循環が起これば企業は勝手に大きくなり、大きくなれば他社が真似出来なくなる、という考え方でこれを私たちはグロースファクターと読んでいます。この要素があれば経営者がいなくても企業は成長します。
 
 
現にペゾスは年の半分以上宇宙事業や慈善活動などに時間を費やしています。このグロースファクターはビジネスモデルの肝であり、成長し続けている企業はすべからくこのグロースファクターが存在します。ここでは枠の都合上説明しませんが、amazon以外のGAFAであるgoogle、facebook、Microsoftも美しいグロースファクターを核に形成しています。
 
 
優秀企業のビジネスモデル
 
 
~キーエンス~
 
 
以上、ビジネスモデルは”「事業・組織・財務」「グロースファクター」を前提要素とした成功企業の成長源泉”です。では実際のケースを見てみましょう。深く論じられていないケースをここでは取り上げたいと思います。
 
 
取り上げるのは「キーエンス」です。営業利益率が50%、平均年収が2000万という言わずと知れたモンスター企業ですが、ビジネスモデルが非常に秀逸です。「事業・組織・財務」「グロースファクター」の順番にキーエンスのビジネスモデルがどのように秀逸なのかを触れていきたいと思います。
 
 
 
~事業・組織・財務について~
 
 
まず、事業について見て参ります。事業とはお伝えしたように誰に、何を、どのようにです。まず誰にについては製造業をターゲットとしています。何をについてはセンサーが40%、マイクロスコープが30%、その他が30%です。
 
 
中でもマイクロスコープが恐ろしく他社の2倍の700~800万で販売しております。これを可能にするのが技術者のレベル、ではなく実は営業マンなのです。営業マンが常に顧客の現場に立ち入り、ニーズを隅から隅まで探し出し、それを会社に持ち帰って商品化に注力するのです。
 
 
営業マンの年収が2000万という事でさぞかし売る力があるのかと思いきや、売る事に足を使うのではなく、商品開発に足を使うのです。実際に商品のライフサイクルはほぼ7年周期です。一般的な企業であればヒット商品が生まれればつい依存してしまい、次の開発に注力しなくなりますが、キーエンスは売れ筋商品に依存することなく、日々イノベーションを起こし続けております。
 
 
次に組織です。組織はお伝えしたように「評価制度」「組織体制」「教育体制」「採用体制」「組織風土」です。年収が2000万という事でさぞかし評価制度が整っており、歩合に近い形なのではないかと考えた方もいらっしゃると思います。
 
 
実はキーエンスには歩合などの金銭的報酬や表彰制度などの心理的報酬はほとんどないのです(厳密に言えばあるはあるが、社員がそこに価値をそこまで感じていない)。
 
 
評価制度についてはセンスがある営業よりも当たり前の事をやりつづける営業が評価される傾向にあります。簡単に言えば120点を取る営業より80点を取る営業が評価される傾向にあります。2:8の法則という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
 
 
2割の社員が8割を稼ぐという考えですが、キーエンスは全く逆で8割の営業が8割の収益を稼ぐ体制なのです。良くトップセールスが一斉退職して会社が傾くといった話を聞きますが、キーエンスはそのような心配は全くありません。
 
 
がんばってもがんばらなくても年収は平均で2000万。普通であれば頑張り損なので活動量自体は鈍くなってしまいそうです。そのような中で営業メンバーはどのような要素でそのような実行力を持っているのでしょうか。
 
 
その答えは採用戦略にあります。キーエンスの採用は新卒100%である事をご存じでしたでしょうか。新卒は一般的に(言い方は悪いですが)会社の色に染めることが出来ると言われます。キーエンスも例に漏れず、営業で足を使うことは当たり前だ、7年周期で商品を入れ替えることは当たり前だという考え方が組織に浸透しているのです。営業マンをやる気をさせる上でお金や評価で釣らないとは驚きですね。
 
 
財務はどうでしょうか。ここは説明するまでもなく、脅威の営業利益率50%です。創業者である滝崎氏は中でも財務戦略を注力して設計したように思います。というのも滝崎氏はキーエンスを立ち上げる前に会社を3回ほど潰しており、「絶対に潰れない会社を作る」と言ってキーエンスを創設したそうです。
 
 
それ故に財務は非常に強固で日本有数の財務が強い会社です。ちなみに、事業を見てもこのモデルは製造以外にも展開出来ますし、前途したようにトップセールスが辞めても潰れないので滝崎氏の潰れないビジネスモデルへのこだわりが節々から感じられます。
 
 
いかがでしょうか。事業・組織・財務がそれぞれ連携して回っているように感じられます。
 
 
組織側面では新卒集団を作る事で組織実行力を高め、事業側面ではその実行力を武器に商品開発力を高め、財務側面ではその商品開発力により高利益率体質を創り出し、それを組織に転じて年収を高める事で離職させない体制を取る。これがキーエンスをささえる美しく仕上がったビジネスモデルなのです。
 
 
~キーエンスのグロースファクター~
 
 
では、次にグロースファクターを見ていきましょう。キーエンスはamazonのように自己増殖し、模倣困難性を構築できているのでしょうか。結論から言えば見事に美しいグロースファクターが出来ております。
 
 
下記の図をご覧ください。非常にシンプル化して先ほどのamazonの事例のように解説するとまず「商品フィードバック力が高い」→「商品力が高い」→「利益率が上がる」→「年収が上がる」→「採用しやすい、離職しにくい」→「優秀な新卒採用が出来る」→「新卒が100%」→「組織実行力が高い」→「商品フィードバック力が高い」と正循環が起こっています。このサイクルの中でキーエンスは「勝手に」成長を遂げているのです。
 
 
 
デジタルマーケティングにおけるビジネスモデル
 
 
以上がビジネスモデルの説明になりますが、デジタルマーケティングの話に戻ります。デジタルマーケティングは上記の概念で言えば、「事業」にあたります。単にどのように売るか、に制限するとさらに狭くなります。
 
 
本来マーケティング戦略とは事業そのものであり、事業全体を見ることが必要です。もっと言えばその事業も組織、財務との一貫性を見ることが重要です。さらにはグロースモデルを踏まえた上で構築する事が重要です。本来の姿と比較すればまさに「木を見て森を見ず」の状況が今世に存在するデジタルマーケティングです。
 
 
デジタルスペースはビジネスモデルという視座を踏まえた上でプロジェクト遂行をいたします。森を変革する訳ではなく、あくまで木を変革する活動ですから本来は必要ないかも知れません。しかし、世の普遍の法則として全体を俯瞰した上で物事を進めなければ物事は失敗します。
 
 
皆様はどうでしょうか?デジタルマーケティングを進める上で近視眼的になっていませんか?部分最適な遂行は必ず失敗します。今一度自社の取り組みを見つめてみましょう。